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essay78 Saabとの会話
寒い冬の早朝。


寒い中、静かに僕の事を待っている。

湾曲したフロント・ウインド・スクリーンが薄っすらと凍てている。

ドアロックを解除し、ドライヴァーズ・シートに身を滑り込ませ、

カキン!と鉄の塊のようなドアを閉める。

シフト・レヴァーの手前にあるイグニッション・キーを捻り、エンジンに火を入れる。

ケロケロケロ・・・、ヴォン!ボボボボボボ・・・・。

『・・・・・・、やあ、おはよう。』

「おはよう。今日はちょっと遠いけど、今日も頼むね。」

『うん。安全運転でね。』

ルームミラー越しに見えるエキゾースト・マフラーから出る湯気が立ち上る。


「じゃあ行くよ。いいかい?」

スロットルをゆっくりと踏み込み、そろりそろりと動き出す。

水温計はまだ一番下を指している。

『今日は寒いね。』

「そうだね。天気予報では午後から雪かもしれないって言ってたよ。」

デフロスターのスウィッチを入れたリア・ウィンドウもまだ曇ったままだ。

ボンネット・フードの中から聞こえてくるメカニカル・ノイズに耳を澄ませる。

ブレーキの感覚を足の裏で、ステアリングの感覚を掌で確かめながら、

「今日の調子はどう?」と訊く。

『まずまずだよ。悪くない。』

水温計の針がようやく一番下の位置から動き出す。

ヒーターも徐々に効き始め、吹き出し口から暖かい送風が出始めてきた。

「シート・ヒーター、早く直さないといけないね。」

『僕はどっちでもいいんだけどね。寒いなら直した方がいいよ、たぶん。』

「じゃあ、そろそろ行くよ。」

少しだけスロットルを踏み込む角度が変わる。

『今日のマイルスのトランペットは良い音を出してるね。』

「そうかい?iPodだからいつもと同じだよ。」

『そうかな。でもやっぱりいつもと違うよ。うん、良い感じ。』


高速道路のETCゲートを通過し、車載器のアナウンスが流れる。

スロットルを深く踏み込み、本線の流れの中に僕たちはゆっくりと滑り込む。

ハイ・スピード・ペースの車を何台かやり過ごし、

追い越し車線に出て目の前の遅い大型トレーラーを追い抜く。

再び走行車線に戻り、僕たちのペースを取り戻す。


BGMはジャミロクワイの「Travelling Without Moving」に変わっていた。

夜の暗闇の中から、道路の外灯に徐々に照らされて、

真っ黒いフェラーリが甲高いエキゾースト・ノートを響かせて現れるイメージのイントロ。

『おいおい、あんまりスピードを出さないでくれよ。』

「わかってる。マイペース、マイペース、だね。」

回転計は3,000回転のあたりをずっと指し、

ボンネットフードからはかなり煩いエンジン音がキャビンまで響いている。

「君のスピード・メーターは240km/hまで刻んであるけど、

 レヴ・リミッターとギア比を考えるとこんなには出ないよね?」

『いいだろ。あくまで気分なんだからさ。』



高速道路出口のETCゲートを通過し、車載器に料金を告げられる。

「いつも思うけれど、このETCの女の人の口調はビジネスライクで固いと思わない?」

『そりゃあ仕方ないさ。あくまで仕事なんだからさ。

 僕はクールでその仕事にふさわしい口調だと思うよ。』

「そうかな・・・」


市街地に入り、渋滞に巻き込まれ、車はなかなか動かない。

BGMではビル・エヴァンスが「Autumn Leaves」を弾き始めた。

やがて水温計の針は少しずつ上昇してくる・・・。

「水温が随分と上がってきたけど、大丈夫かい?」

『うん、大丈夫。』

しばらくして、ファンが唸りをあげて回りだし、見る見るうちに水温が下がってくる。

『ホラね。』

「サーモスタットはまだ無事のようだね。」


目的地にたどり着き、エンジンの火を消す。

しばらくファンだけが回り続けるが、それもすぐに止まった。

外に出ると、キン、キン、キン・・・といういつもの音が聞こえる。

「お疲れさん。」

『・・・・・・・』




仕事を終えて再び僕が戻って来ると、愛くるしい姿で静かに僕を待っていた。

流行のデザインがちりばめられた周りの車に比べると随分とその時代の差を感じさせる。

まだ新しく、若かった頃のパフォーマンスはもう望むべくも無い。

しかし、きっと良い歳の取り方をしたと僕は思う。

歳相応の良い顔つきだ。

お金をつぎ込んで常にベスト・コンディションを保っているわけでは決してない。

なるべくお金をかけないように、トラブルと付き合いながらも、だましだまし乗り続けている。

でもいつも僕に静かに語りかけてくれる。



イグニッション・シリンダーにキーを差し込み、捻る。

ケロケロケロ・・・・、ヴォン!ボボボボボボ・・・・・。

無事エンジンが点火された。

エンジンをかける時、少なからず緊張する。

寝てると思っていたら死んでいた・・・、なんてね。


『・・・・・、やあ。仕事は無事終わった?』

「うん、お待たせ。帰りも頼むよ。」

『うん。安全運転でね。』


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