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essay70
シンプルかつ誠実である事
僕が建築設計の仕事に関わるようになってもう19年の年月が経ちました。

20代の頃は一人前になるという意味でとにかく早く30才になりたいと考えていました。

そして独立した30才の時は、この先の10年間は試練の期間だと心に決めていましたが、

独立して10年、その僕ももうすぐ40才になります。

その間に大切な人たちとの出会いがあり、経験があり、試練がありました。

最初からひとつのはっきりした目標があり、

それに向かって計画的に進んできたわけではなく、

いろいろな縁に巡り会いながら、大きな流れの中で自然に進んできたという感じです。


建築を教わった9年間という、設計事務所に勤めていた年月はとても長いと感じていましたが、

独立した後の期間の方がいつの間にか長くなってしまいました。

何だか本当にあっという間の10年間だったような気がします。

40才になるといっても特に何も変ることはありませんし、

いつもと同じように1日を過ごすだけですが、

40才という節目に少しだけ自分を振り返ってみたいと思います。



建築設計の仕事に携わるようになり、自分なりに建築と向き合ってきた19年ですが、

少しずつ建築に対する考え方が変わってきたような気がします。

それは独立して、好きだった住宅設計の仕事をひとつひとつ経験してきた事が大きく影響しているのかもしれません。

僕は昔から装飾的なデザインは好きではありませんでしたし、

機能的、構造的に美しい建築が好きでした。

でもその考えはよりシンプルな方向へと向いていったような気がします。

シンプルと言っても、いわゆるミニマル・デザインという意味ではありません。

建築のあり方としてシンプルという事です。


建築は、特に大きな建築物になればなるほど本質的、構造的に大袈裟になってしまいがちです。

ある事を実現しようと思うと、それに伴ってまた新たな細工や設備が必要になり、

またそれに対しても新たな・・・、という具合にです。

また建築物を建設するにあたって、とても大きな物理的エネルギーが必要になります。

また出来上がった建築物も然りです。

反面、住宅のような比較的小さな建築物はずっとシンプルに成り立つ事が可能です。

装飾的な事はもちろんですが、余計な事は出来る限り省く事ができます。


よく木工家具を扱う職人が、木の素材を見て家具をつくると言います。

自分は何もしていない。

ただ、木という素材を生かしているだけだ、と。

住宅も同じだと思います。

敷地の条件やクライアントの要望などのさまざまな条件をある素材と考え、

それをそのまま良い形で生かすという考え。

その素材を生かす事が設計者の本当の役割で、

設計者の思い上がったデザインなんていうものは必要ないのかもしれない。

物事はもっとシンプルで誠実な事だと僕は思います。

目の前の素材に対して誠実に取り組み、

余計な事をせず、何の飾り気もない、静けさと潔さをただシンプルにつくり上げた豊かさ。

未熟な自分にはまだまだそんな建築には程遠いという思いはある。

でも目の前の仕事にひとつひとつ誠実に向き合っていく事、

それが、自分が思い描く建築に近づく事のできる唯一無二の方法である。




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