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essay3
群馬での仕事
2001年11月。

それは一本の電話から始まった。(そう、仕事はいつも一本の電話、あるいは一通のEメールから始まる。)

「あのう・・・、雑誌を見させてもらったんですけど、素敵な家だなあと思って・・・。

家を建てたいと思っているんですけれど、群馬では仕事できますか?」

女性の声である。名前はHさん。

僕は特に仕事をするにあたって地域にこだわっている事もないので、

「もちろん群馬でも仕事はやりますが、何分遠方なので交通費だけは通常よりかかりますよ。」と伝え、

とにかくお会いしたいということなので群馬県まで出向く事にした。

遠方なので当日の交通費だけは先方の負担とさせてもらう事を伝え、

交通費の金額や時間などについては、またあらためてこちらから連絡します、と電話を切った。

群馬県といっても東京の北の辺りという事は知っているが、正直言って正確な位置までは分からない。

「群馬って・・・、山の中なんだろうか・・・。」

地図で群馬県の高崎市を調べ、パソコンで高速道路のルートと高速料金、新幹線などの電車賃も調べる。

群馬県高崎市・・・、結構、遠い。


聞いていた電話番号に電話をかけ、待ち合わせ時間と交通費の金額を伝える。

とりあえず、1週間後の日曜日の午後に群馬県の高崎インターチェンジ出口で待ち合わせとなる。

クライアントが建築家に対するのと同じように、建築家の方もどんなクライアントなのかと期待と不安が混ざり合う。


待ち合わせの日、朝早くに出発し、

名神高速道路「小牧IC」→「小牧JCT」→「中央自動車道」→「岡谷JCT」→「長野自動車道」→「更埴JCT」

→「上信越自動車道」→「藤岡JCT」→「関越自動車道」→「高崎IC」へとようやくたどり着く。

料金所を過ぎたところで車を停め、Hさんを待つ。

しばらくしてHさんのご主人が車でやって来て、家まで案内してもらう。

Hさんの家で雑談を交えた簡単な話をした後、今Hさんが購入しようと思っている土地を一緒に見に行き、

Hさんの用意が整ったらあらためて連絡を貰う約束をし、その日の夕方に群馬を離れる。


本当にHさんは僕に家の設計を頼むのだろうかと思いながら、返事を待つ。

Hさん夫婦はとても良い感じの人だけれど、遠いしひょっとしたらダメかもしれないなと思っていると、

数日後、Hさんから電話が入る。

「設計をお願いしたいので、よろしくお願いします。」とHさん。

「こちらこそよろしくお願いします。」と僕。


通常は、正式に設計監理契約を交わすまでに何度かの打合せとプランのプレゼンを行うが、

Hさんははじめて電話をかける前から僕に頼むと決めていたらしく、

Hさんの準備が整ったらすぐに連絡を入れてくれた。

わざわざ遠方の僕に設計を頼むということは、正直言ってうれしい事だったし、

厳しい予算だけれどHさんのためになんとかいい家を完成させようと思った。

そしてその時から、僕の群馬での住宅の設計作業が始まった。


そこからはいつもの事ながら大変で膨大な設計作業が待っている。

時々、設計事務所のデザイン料って高いんでしょ?と言われる事がある。

確かに金額だけ見れば普通のクライアントにとって決して安い金額ではない。

しかし、設計事務所への報酬をデザイン料とは呼ばないし(あくまで設計監理料と言います)、

最終的に家づくりに支払うトータル金額は他の場合と比べてもそれほど変わらないと思う。

そりゃあ、デザインだけちょっと考えてそんな大金が入ればどんなに楽だろうと僕でも思う。

でも建築ってそんなに簡単なものではないし、

逆にその大変さがなくては建築の醍醐味を本当の意味で味わえない。

群馬の住宅は遠く、打合せや現場監理も大変だと思ったけど、

「とにかく、やってみなくちゃ分からない」という僕の探究心とHさんの人柄が僕を決心させた。


打ち合わせの度に家に泊めていただいたHさん、

僕の指示にいやな顔ひとつ見せず誠実に対応してくれた施工業者さんとその協力業者さん、

仕事をきっちりこなした職人さん達みんなに多謝。

建築家ひとりで家はつくれない。


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